重箱のすみ

アイドルとの距離感の取り方は、いつまでたっても難しい

アイムホーム 総合感想

1話を見終わった後、率直に言って、こういう木村拓哉が見たかったのだ、と思った。

木村拓哉といえば、言わずと知れたスーパースターであり、スーパーヒーローだ。その木村拓哉だからこそ演じられる役柄、説得力のある役柄はこれまでいくつもあった。「明るく強く、なんでもできるスーパーヒーロー像」としての彼はもちろん魅力的だけれど、私は、そこから外れたものも見てみたいと思っていた。

 

2012年の10月期に放送された木村主演のドラマ、『Priceless ~あるわけねぇだろ、んなもん!~』。視聴率は、このクールではかなり高い方だったようだ。何と言っても、総理大臣役まで経験した木村がホームレスを演じるという点は、放送当時かなり話題になっていたと記憶している。「こんな木村拓哉見たことない」という声がよく聞かれた。けれど私は当時、『Priceless』の1話と2話を見て、「本当に今まで見たことのない木村拓哉なのか?」と思ってしまった。そりゃ、ホームレスは確かに初めて見る役だけれども、そういうことではない。

『Priceless』での木村の役柄、二三男は、理不尽な陰謀により勤めていた会社を解雇され、爆発事故により住んでいた部屋を失い、携帯電話も通りすがりの男性とぶつかった拍子に川に流されてしまう。不幸なことが続き、一瞬にして仕事も家も財産もゼロになってしまい、ホームレスになる……。

と、ここまでストーリーが進んでいく時点で、普通なら主人公は精神的に打ちのめされてボロボロになっているだろうと思うのだが、二三男にはそういう「挫折」とか「悲壮感」を感じさせる演出がほとんどなかったのだ。それどころか、ホームレス生活を「しょうがねーじゃん」と軽く受け入れ、むしろ楽しんでいるようにも見えた。私はこの時に、このドラマにはちょっと感情移入できないわ…と思ってしまった。加えて、二三男が不当な解雇をされた理由を探ろうとした経理部の二階堂彩矢(香里奈)も解雇されてしまったあたりで、理不尽な展開にイライラして見るのをやめてしまった。キスマイにハマってしまった今思うと、木村を崇拝する勢いで尊敬している藤ヶ谷との共演を見てないなんてもったいないけれども。っていうか2話までしか見てないから、藤ヶ谷の印象ほとんど覚えてない。

……なんだか、今更2年以上前のドラマをdisるようなことを書いてしまって申し訳ない。何が言いたかったかというと、つまり、「ホームレスを演じている」という点では新しかったけれども、「どんな逆境も明るく強く乗り越えていく木村拓哉」という点では、それまでの木村拓哉のイメージと変わらないのではないかと思ったのだ。もちろん、そういう木村だからこそ魅力があると感じる方もいるだろう。勇気をもらえると感じる方もいるだろう。

しかし、これはもう好みの問題になるのだけども、私はそうではなかった。苦難を真正面から受け止めて、弱さや脆さも見せて、悩みながらも前へ進む木村拓哉が見たかった。ちなみにそう思ったのは、『ハウルの動く城』で、何でも持っているように見えて実は孤独で闇を抱えているハウルの姿に心打たれ、木村がそういう役柄を声で演じているのを見て、「ぜひドラマでこういう役をやってほしい」と思っていたからなんだけど。

 

私はかねてからそんなことを考えていたので、『アイムホーム』を見始めて、これが私が見たかった木村拓哉だと思ったのだ。

『アイムホーム』の家路久は、事故により過去5年間の記憶がなくなってしまい、その記憶と人々との絆を取り戻すために動き始める。そこで直面する過去の自分がしてきた様々な行動は信じられないものであり、多くの人を傷つけてきた事実に苦しめられる。また、妻と息子の顔が仮面に見え、自分が彼らを愛しているのかもよくわからない一方で、前妻と娘の方が愛着を感じられ、2つの家族の間で苦悩する。

総理大臣だったり、アイスホッケーのスター選手だったり、負けず嫌いで破天荒なパイロットだったり、国家権力と戦う検事だったり。これまで華々しい役柄を演じてきた木村拓哉が2015年に演じたのは、(仮面に見えるというちょっと特殊な状況だけども)家族と周囲の人々のために尽くすサラリーマンという、一見庶民的な役柄だった。家族のことで悩み、会社のことで悩み、友人のことで悩み。苦悩し、涙しながらも、それを真正面から受け止め、一つひとつ丁寧に解決していく。その姿は、華々しくはないかもしれない。けれど、美しいと思った。

また、家路久はスーパースターではないけれども、家族を守るヒーローなんだよな。スケールは小さいかもしれない、けど家族とその周りの人のために動く、ヒーローなんだよな。最後まで見て改めてそれを感じた。木村がそういう役柄をやることが、世のお父さん達にも勇気をあたえているといいななんて、勝手に思ってしまった。

 

もう一つ。このドラマは、久が過去の自分が壊してきた絆を、修復し、再構築するということがストーリーの軸となっている。けれども、再構築したからといって過去に固執するわけではなく、あくまでも前へ進むことが前提だ。過去を清算し、お互い納得した上で別れているのに、なぜか残る去り際の切なさ。それを特に感じたのは、2話の山野辺(田中直樹)と、8話の杏子(吹石一恵)のラストだった。特に杏子すーっごく良かったなぁ。あの何とも言えない切なさが、ドラマを一層鮮やかに彩っていた気がするよ。

 

最終回は若干詰め込み要素が多くて、社長との直接対決もうちょっと時間かけてやれば?と思ったし、久が逮捕されてから釈放されるまであっさりしすぎじゃない?と思ったし。何より火事のシーンはちょっと笑ってしまった。消防隊員が到着してるのに、それを押しのけて久が助けに行くなんて、さすがにありえなさすぎる。まぁ、最後にこれくらい派手なシーンを入れたい気持ちもわかるけど。でも、これまで『妻と息子が仮面に見える』という、非現実的なシチュエーションを、ストーリーの緻密さと、スタッフキャストの技術の結集と、何より木村の演技力で、説得力あるものに作り上げてきたのに。「ありえない」と言わせないだけのものを作り上げてきたのに。それなのに最後に全然違う場面で、「いやこんなことありえるかーい!」と突っ込ませてしまうのは、ちょっともったいなかったかな。

 

苦しくて、切なくて、先が全く見えなくて。それでも、事態が開けた時の爽快感は素晴らしい。素敵なドラマに出会えました。ありがとうございました。

 

 

  

 

 

アイムホーム DVD-BOX

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