重箱のすみ

アイドルとの距離感の取り方は、いつまでたっても難しい

テレビは「本気」を見せてくれ

(注:今回はあんまりキスマイもSMAPも関係なくって、テレビ界全体のことみたいな話になってしまいました。お好みに合わない方がいらっしゃったらすみません)

 

先月7月30日の木曜日。ダウンタウンDXに千賀と二階堂が出演した時のこと。この回は本当に面白くて、2人も色々なところでいいコメントをしたり、スタジオを沸かせたりして、結果を残していてとても嬉しかった。クッキーを割って「あはっ(ハート)」と喜ぶ謎だけど可愛い千賀、松本に憧れていることを本人の前でバラされてちょっと恥ずかしそうな二階堂。さらに、お互い相手の細かいことで文句を言うのに「やめてくれ…た…よね?」という着地でケンカにならないところまで、ニカ千の空気感が表れていてすごく楽しかった。Kis-My-Ft2という名前は聞いたことがあっても個人名は全然わからない、というような視聴者に対しても、いいアピールになったと思う。

さてその中で、2人がこの日同じくゲストだった指原莉乃と言い争う場面があった。指原が、ニューハーフアイドルのたけうち亜美と似ているという話題の際に、まず二階堂が「(指原より)亜美ちゃんの方が全然カワイイけどね」と先制攻撃を仕掛ける。指原はそれを受けて、「いや、私だって、キスマイでもあの2人には言われたくないです!*1」と応酬する。

さらにその後、指原はHKTのコンサートの際に楽屋で全裸で踊って、困っている後輩の反応を見るのが面白いというトークを展開する。そして、このトークの前に、バスルームで半裸になって化粧品を紹介していた千賀や、コンサートで脱ぐために体を鍛えている二階堂のVTRが流れたことを踏まえて、指原はこう言うのだ。

指原:私、さっきからずっとお話し聞いたり、VTR見たりして思ったんですけど、キスマイのあのお二人も、裸で何かやったりとかしてたじゃないですか。だから、グループのブスって、脱ぎたがるんじゃないかなって!*2

二千:おい!!(二人で立ち上がる)

指原:私もそう、私もそうだから

千賀:顔がブスだから舞祭組になったわけじゃないわ!!*3

指原:わたし、私もどっこいだから

千賀:正直、フェイスラインだけで言ったら、よく1位になれたなって!

 このくだりがとても好きだった。突然の理不尽なブス扱いに対し、立ち上がってぎゃんぎゃん抗議して言い返すニカ千。でもそれも、千賀の「フェイスライン」という面白いワードを入れることによって、ガチで怒ってるわけじゃないというのが見ている側にも伝わってくる。ちゃんと笑いになる絶妙なラインをついてくるところがさすがだ。素晴らしい。

こうやって、ジャニーズアイドルと他の女性タレントが絡んだり言い争ったりしたとき、「○○くんの悪口言うなんて最低!」「もう近付かないで!」と炎上する案件は往々にしてあると思う。しかし今回に関しては、ニカ千側も指原側も、双方が冗談だとわかるような雰囲気を出していて*4、これくらいなら指原に突撃するような人も少ないだろうと思った。実際、今回はそんなにおおごとにはならなかったようだ。しかし、私はそれとは別に、思わぬかたちで複雑な気持ちにさせられてしまった。

それは、放送終了後に、指原のツイートを見た時だった。一般のユーザーの「キスマイヲタさんに叩かれてない?大丈夫?」というリプライに対し、指原はこう返したのだ。

 

 

私はこのツイートを見た時、リアルに声に出して、「えぇぇ……」と言ってしまった。この指原の言い方じゃ、「私は、プロレスで千賀さんと二階堂さんと言い争ってます。争ってるように見せてるだけです、ビジネスです」って宣言しているようなものじゃないだろうか。言われなくてもそんなことはわかっている。けれども、そこをビジネスと名言せずに、「本気」でやっているように見せるところがバラエティじゃないだろうか。

例えるなら、人が宙に浮いているようなイリュージョンショーを見て、観客が「すごーい!面白い!」と沸いているところに、マジシャンが「これは実際に浮いてる訳じゃないんですよ、こうやってこうやって…」と、急にトリックを明かし始めたような気持ちになってしまったのだ。……いや、いや、知ってるよ!本当に宙に浮いてないことは知ってるよ!でも別にそこで、「浮いてませんよー」ってそっちから言わなくてもいいじゃないか、ちょっと興ざめしてしまうよ。

ただ、確かに、こういうリプが送られて来た場合、こうやってきちんと説明しなければしないで、「スルーするのか」「やっぱり叩かれてるんだ」みたいに言われてまたさらに火が燃え上がるっていうこともあるだろうから、反応しなければいけないんだろうという事情は感じるんだけどもね。だから私は正直、極論を言うと、芸能人はTwitterをやらなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。今の時代は芸能人と視聴者の距離が近すぎる。フィクションとノンフィクションの区別が曖昧な時に、その曖昧さを含めて楽しむという人達よりも、フィクションかノンフィクションかどっちかハッキリさせてやろうという人達の方が多い気がするんだよなぁ。

 

ここからはもう、テレビ論みたいな話になってきてしまうんですけども。

今年の27時間テレビのテーマは「本気になれなきゃテレビじゃないじゃ~ん!」。これを掲げて、メインMCのナインティナインが「本気」を見せることでテレビ界の危機を救い、テレビは楽しいという本来の姿を自らの行動で示していくことが目標だったらしい。

『FNS27時間テレビ2015』 - とれたてフジテレビ

 

正直私は、今年の27時間テレビをそんなに長時間見ていない。めちゃイケメンバーがメインでやるって言ってるのに、結局ナイナイと中居の番組になってるじゃないか、というのがその一因だ。こういう形態にするなら、最初から総合MCはナイナイと中居だと言えばよかったじゃないか。そのスタンスのブレのせいで、めちゃイケメンバーでも目立っていないメンバーがいたところが勿体ない。中居だって、メンバーだって、お互いに肩身が狭いじゃないか……と、まだまだ言いたいことはいっぱいあるのだが、とりあえずここでは置いておく。まぁつまり、そんなこんなで今年の27時間テレビはあまり見ていなかった。

ただ番組の終盤、岡村が様々な人とコラボするということで「テレビのピンチをチャンスに変える」というテーマの、60分ノンストップライブをやるという時。それは楽しみにしていた。ライブが始まる前、モーニング娘。OG、AKB48EXILEなど、コラボするアーティストの紹介VTRが流れる。その中で、1990年代に圧倒的な人気を誇っていた*5、アイドル風芸人のハシリと言われる吉本印天然素材が復活するというVTRが流れた。そして、当時彼らを指導していた夏まゆみ先生は、感慨深そうにこう言った。

やっぱり、矢部に踊ってほしいかなぁ。矢部が踊ったら、感動しちゃう。

 しかし矢部は、その夏先生のVTR終わりにこう言う。

矢部:まぁ、踊らないですけどね。

中居:えっ、心に響かないの?

矢部:あぁ、そういう思いでいてくれてんねや、(とは思うけど)踊らないです。

その場にいためちゃイケメンバーからは、「えー?」「ひどいなー」などの言葉が飛ぶ。矢部は表情を変えず頑なに踊ると言わない。

結論から言うと、矢部は結局天然素材のダンスの際に、参加して踊り始めたのだ。そして天然素材メンバーと一緒に、激しいダンスを最後まで踊りきった。そのダンス自体はとてもカッコよかったし、40歳オーバーの芸人達が体力の限界まで踊っているところは本気を見せてもらえたなぁと思った。 でも、やっぱりその前の流れがいただけない。番組としては、「いや、矢部は踊らないって言ってたのに結局踊るんかーい!」という笑いを生みだしたかったのだろうと思うのだけども、それがちょっと寒くないだろうか。

全く同じことが、このライブにおけるSMAPの扱いに対しても言える。アーティストVTRの最中ずっと、佐野アナウンサーは「中居さん、あの国民的グループの情報がまだですねぇ」「結局あのグループはどうなったんでしょう?」のように、SMAPは登場しないのかと中居に何度も問いかける。中居はそれを受けて「いや、出ないですよ。メンバーも来ないですよ、そんな予定はないんですから」などと否定する。もう、このわざとらしいくだりが何度も繰り返されることによって、多分SMAP出るんだろうなってわかる。そしてノンストップライブも終わりに近づく頃、カメラマンに扮した木村の姿が映し出されると、めちゃイケメンバーは「中居さん!早く行かないと!」とライブに送り出す。中居はポカーンとした顔をしながら、ライブ会場へ向かう……という流れなんだけども。

いや、あのさぁ!もうわかるじゃん!ライブなんだから、打ち合わせ一切なしでできるわけなどない。SMAPがライブをやることだって、中居が出ることだって、みんなわかってたんでしょ。みんなわかっていたはずなのに、それを知らないていでやっている感じが、面白いというより寒いと思ってしまう。パフォーマンス自体は素晴らしかった。SMAPがスタッフや警備員に扮しているところ最高だった。特に、照明さんに扮していたつよぽんが、ピースして、笑顔で華麗にヘルメットを投げ捨てるシーンなんて、あまりのかっこよさに涙が出た。そういうパフォーマンスだっただけに、最初から視聴者にもバレバレのくだりをやっていたことによって、全体の印象が安っぽくなってしまってもったいない。せめて、木村が映し出された時に、スタジオにはすでに中居がいなくて、ライブ会場に現れた中居を見てめちゃイケメンバーみんなが驚く、という流れだったら、一応中居は知っていたという設定にすることができるからまだいいと思うんだけども。

「いや、SMAP出るんかーい、中居も踊るんかーい」という笑いは、一昔前だったら面白かったかもしれないけれど、今の時代にはそぐわない気がする。先ほども言ったように、今の時代は「フィクション」と「ノンフィクション」をきっちり建て分けたい人が増えていて、その曖昧さを楽しむ余裕がなくなってきているんじゃないかと思うのだ。今回の27時間テレビでは、「テレビがピンチだ」というフレーズを何回も連呼していたけれども、こういう時代の変化や視聴者の好み、笑いの違いに対応できてないっていうところが、ピンチになってしまった要因なんじゃないだろうか。それを制作側が全然理解できていないように感じられる。

難しい時代だとは思う。今は、「本気を見せる」か、「明らかに設定・コントとわかる」ものの二極化しているように感じられるし、その流れは止まらないと思う。ただ、「本気でやっている」ように見せる面白さはあると思うので、それを明らかにわかるような形ではこちらに提示してほしくない。そのギリギリのラインを攻めて行ってほしいなと思ったのでした。

*1:っていうかこの時点では千賀は何も言ってないのに一緒にされている・笑

*2:っていうか、今の女子アイドル界のトップが自分はブスだと言うなんて、やっぱ指原はすごいなと思う

*3:こういうことをこまめに言っていくことって大事ですよね

*4:もちろん、冗談とわかっていてもこういうくだりが受け入れられない方もいると思いますが

*5:私は当時を全然知らないけれども